軍艦島 を眺めるたび、私は妻のことを思い出す。
妻が亡くなってから、季節はいくつも巡った。
それでも、ふとした瞬間に隣を見てしまう。そこにいるはずの人がいない現実に、今でも心が追いつかないことがある。
軍艦島のコンクリートの建物は、かつて多くの家族の笑い声や暮らしを抱いていた。
今は無人となり、静かに海風を受けている。その姿は、私の心のどこかと重なって見える。
けれど、島がただの廃墟ではないように、妻との人生も過去になっただけではない。
ともに歩いた道。 ともに見た景色。 ともに語った夢。
それらは今も私の中で生き続けている。
軍艦島の夕暮れに立つと、潮風の向こうから妻の声が聞こえてくるような気がする。
「あなた、元気にしていますか」
私は静かに海を見つめながら答える。
「寂しいよ。でも、あなたと生きた時間があるから、私は今日も前を向いて歩いている」
波は絶えず岸を打ち、夕日は海を赤く染める。
人はいつかこの世を去る。 建物もいつか朽ちていく。
それでも、愛した人との記憶は消えない。
軍艦島が海の上に立ち続けるように、妻への想いもまた、私の心の中で静かに生き続けている。

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寄稿者 坂本道徳(さかもと・どうとく) NPO法人 軍艦島を世界遺産にする会 理事長