発酵や麹調味料を入り口に、食と暮らし、自然循環をつなぐ活動に取り組む、認定麹インストラクターの高橋亜佳理氏。地域の人とともに畑を活用した発酵・食育や自然体験の場づくりを進めている。土や野菜、季節の変化に触れる体験を通して、食と自然のつながりを伝え、地域に受け継がれてきた食文化や暮らしの知恵を次世代へつなぐことを目指している。 (9月10日オンライン取材、聞き手 印南幸恵)
発酵を入り口に食と暮らしを見つめる
高橋氏は現在、発酵を身近に楽しむための学びや、日々の食卓に取り入れやすい麹調味料の提案、自然の中で食や土に触れる体験づくりなどに取り組んでいる。参加者が「知る」だけで終わらず、学んだことを自分の暮らしに持ち帰り、次の行動につなげられる場づくりを大切にしている。
これまでには、子どもたちを対象にしたカヌーやヨット、素潜りなどの水辺の活動や、山岳ガイド、スキーパトロール、スラックラインのチームを立ち上げた町おこしなどにも取り組んできた。沖縄や長野を中心に、命や身体と向き合う活動を続けてきたことが、現在の活動にもつながっている。
食が身近にあった家庭環境から分子栄養学も学び、有機給食やオーガニック推進プロジェクト、日本の発酵食の魅力を伝える活動、微生物を生かした土づくりなどにも取り組んできた。
地域の人と畑から循環を育てる
現在、特に力を入れているのが、発酵・食育と自然体験を組み合わせたリジェネラティブ(環境再生型農業)な取り組みだ。管理しきれない農地の活用について声をかけられたことをきっかけに、長野でも取り組んできた菌ちゃん農法(土の中の微生物の力で野菜を育てる方法)を東京で始め、地域の人たちと一緒に畑をつくっている。
東京山側DMCの地域創生プロデューサー講座を受講する中で、食には栄養を取るだけでなく、人と人、人と地域、人と自然をつなぐ力があることを改めて実感したという。
「発酵は目に見えにくい微生物の働きによって、時間をかけて味わいや豊かさを生み出します。その考え方は地域づくりにも通じると感じています。すぐに答えを求めるのではなく、関係性を育て、小さな循環を重ねていきたい」と話す。
畑では、生ごみを栄養として土に戻す資源循環にも目を向けている。食と農を楽しみながら、自然や地域とのつながりを感じる人を増やすことが目標だ。
地域内外から参加できる場へ
活動を進める上での課題は、地域で共感し合える仲間とのつながりを広げることだ。日々の予定に追われて時間を取りにくい人、継続への不安を感じる人もいるため、活動の魅力や意義を十分に伝えきれないこともあるという。
畑を始める際には、地域とのつながりを持つ友人に声をかけ、その仲間たちと活動をスタートした。今後は地域の人たちにも運営に関わってもらいながら、都心部からも参加者を募り、地域内外の人が関われる場へと広げていく。
専門的な知識を一方的に伝えるのではなく、まずは気軽に参加できる入り口をつくることも重視する。土や野菜、季節の変化に触れる体験を通じて、食と自然のつながりを分かりやすく伝えていく考えだ。
食文化と自然体験を地域の魅力に
今後は、竹林を活用した竹炭づくりと土づくり、自分たちで農薬を使わずに育てた大豆を使った味噌づくり、地元の麹と農産物を使った発酵食づくり、マコモ栽培(イネ科の多年草「マコモ」を育て、茎が肥大化した「マコモダケ」などを収穫する農業)などにも取り組みたいとしている。
こうした発酵・食育・自然体験を地域の魅力や観光、学びの場づくりと結び付け、地域に受け継がれてきた食文化や暮らしの知恵を、地域の人と訪れる人の双方に伝える企画へと発展させていく。
今後1〜3年では、土づくりや野菜づくりを含めた継続的なプログラムを育て、親子や地域の人がいつでも何度でも気軽に関われる、居心地の良い場を実現したいという。
目指しているのは、子どもから大人までが食や自然、地域とのつながりを身近に感じ、自分の暮らしを前向きに選びながら、健やかに過ごせる社会だ。
食べること、畑に触れること、地域の人の話を聞くこと、地域の魅力を発信すること。その一つ一つを地域を知り、好きになり、未来につなげる行動と捉え、麹菌や微生物の働き、自然循環の視点から、人と地域、地球環境をつなぐ活動を続けていく。
9月10日オンライン取材
聞き手:印南幸恵(いんなみ・ゆきえ)ツーリズムメディアサービス特任記者、東京山側DMC 地域創生マチヅクリ事業部