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東京・新宿のふじや染工房に聞く、引き染め体験で伝える「江戸の粋」

コメント

東京・新宿で着物の引き染めを手がけるふじや染工房3代目の中村隆敏氏。体験教室や見学、「紺屋めぐり」を通じ、職人の技術と美意識を伝えている。今回は、手仕事の価値や技術継承の課題、海外の人にも伝える工房づくりについて聞いた。
(10月20日オンライン取材、聞き手 小田切妙)

――ふじや染工房について教えてください。

ふじや染工房は1952年に新宿で創業した家族経営の染工房です。私は3代目として、着物の引き染めをしています。引き染めは、刷毛を使って生地に色を染めていく技法です。色の濃淡やぼかし、刷毛の動かし方など、職人の経験や感覚が仕上がりに表れます。着物や帯揚げ、両面染めの着物、ストールなどを手がけています。私が大切にしているのは「江戸の粋」という感覚です。派手さや分かりやすさだけではなく、一見するとシンプルな色の中にも奥行きや表情がある。そうしたものづくりを大切にしています。

――工房での体験教室や見学にも力を入れているそうですね。

実際に工房に来ていただき、引き染めの歴史や技術を知ってもらい、職人の仕事を間近で見ていただく取り組みです。単に染めの作業を体験してもらうだけではなく、なぜこの技法が生まれたのか、職人は何を考えながら仕事をしているのか、そうした背景も伝えたいと思っています。

「紺屋めぐり」のような取り組みも大切にしています。新宿区染色協議会が主催となり、今年は10月29日から11月1日まで新宿区にある染色関連の工房にて体験・見学ができる催しです。普段はなかなか入る機会のない染工房に足を運び、ものづくりの現場や職人に出会ってもらう機会です。工房で実際に話をして、技術や背景を知っていただくことで、着物や染めたものに対する見方も変わってくると感じています。

――事業を続けるうえで、どのような課題がありますか。

大きな課題は、技術を受け継いでいくことと、職人がきちんと仕事を続けていける事業にすることです。伝統技術を残すことは大切ですが、技術を残すことだけでは工房を続けていけません。仕事として利益を生み、職人が生活でき、次の世代へつないでいける仕組みが必要です。そのためには、ただ商品を作って販売するだけではなく、引き染めという技術や、そこにある文化、職人の考え方まで含めて価値を伝えていく必要があると考えています。

――機械でもきれいに作れる時代に、手仕事ならではの価値をどのように考えていますか。

今、よく考えているのは「機械の方がきれいに作れる時代に、なぜ人が手で作るのか」という問いです。機械でも人の手でも、きれいに染めることはできます。私は、手仕事だから生まれる揺らぎやムラそのものに価値があるとは考えていません。大切なのは、職人が何を美しいと考え、何を選択し、どんな表現を目指しているのかということです。職人の価値は、作品を作ることだけでは終わらないと思っています。職人自身が考え、悩み、選択し、自分の哲学や美意識を持って生きる。それらが作品として表現され、作品が誰かに影響を与えることも、ものづくりの価値の一つです。人は、ものそのものに魅力を感じるだけでなく、それを作る人にも魅力を感じる生き物だと思います。

――体験教室や紺屋めぐりを、事業の中でどのように位置づけていますか。

技術や考え方を知ってもらうための入口だと考えています。まず工房に来てもらい、職人と話し、仕事の背景を知ってもらう。そこから着物や染めたものに興味を持っていただき、商品を購入していただくことにもつなげてく。観光として工房を訪れることが、伝統産業を知るきっかけになり、その先に工房を支える人や仕事が生まれる。そんな循環を作っていきたいと思っています。

――そのためにこれから工房で取り組みたいことは何ですか。

工房での体験や見学を、もっと充実させていきたいです。昼間の体験だけでなく、夜の工房など、日常とは少し違う時間の中で、ものづくりや職人と向き合える場も考えています。また、着物の知識や染めの技術を、実際の現場で学べる機会も作っていきたいです。

日本の方だけではなく、海外の方にも引き染めや日本の職人文化を伝えていきたいと思っています。日本の伝統技術は、日本人だけが知っていればいいものではありません。背景を知れば、国や文化が違っても共感してもらえる部分があるはずです。工房での体験や発信を通じて、ふじや染工房のものづくりに触れてもらう機会を増やしていきたいです。

――今後は、どのような工房を目指していますか。

目指しているのは、伝統を守ることと、新しい価値を生み出すことが両立する工房です。伝統だから残すというだけではなく、今の時代に必要とされる理由を自分たちで考え、仕事として成立させていく。そのために商品を作ること、販売すること、工房に来てもらうこと、技術や文化を伝えることを、それぞれ別々に考えるのではなく、一つの事業としてつなげていきます。

職人という仕事が、ただ技術を受け継ぐだけの仕事ではなく、自分の考えや哲学を持ち、それを社会に発信できる仕事になってほしいと思っています。ものづくりを通して人と出会い、その人の考え方や生き方に何かしらの影響を与える。そんな職人のあり方も、これからの時代に必要なのではないかと感じています。

ふじや染工房が続いていくことはもちろん、私たちの取り組みを通じて、染めや着物、そして日本の職人文化そのものに興味を持つ人が増えてくれたらうれしいです。

※サムネイルは、引き染めをする中村氏

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